created: 2020-11-24 16:56, tags: 考察, プログラミングスクール,

未経験から1000万を真面目に考えてみる

Twitter では未経験から 1000 万というワードがたびたび色々な人の心を揺さぶって仕方がなく、話題になるのを繰り返している。

なので、現実的な話としてどうなのか?という部分を考えて見ようと思い、ブログのネタにしてみた。

未経験とはどういう状態か?

なかなか議論されない部分として、未経験とはどういう状態なのか?というそもそもの定義に関しての所が気になった。
単純に考えれば業務経験を指しての未経験という意味になるはずだけど、プログラミングスクールや、テック系 YouTuber の言葉を見る限りでは、 専門学校や高専、大学などの教育機関で情報を学んでいない人を指していそうだった。

Twitter を見ていても未経験と言った際の意味は、だいたい前述の内容のようだったので、未経験の定義は「情報 (やプログラミング) のカリキュラムを受けておらず、業務経験も無い人」という事にしておく。
(とはいえ、プログラミングスクールに通ったり、サロンに入って学ぶと未経験ではなくなるのでは?という疑問はある)

プログラミングスクール卒業後の能力について

良く言われるプログラミングスクール (以下スクールと呼ぶ) を卒業した直後の人が現場で使えるかどうかの問題を考えてみる。

まず、スクール入学時点では未経験であるため (未経験ではない人も来るだろうけど、今は未経験の話をするので経験者は無視する)、初期能力にバラつきがある。 どの程度のバラつきがあるかと言うと、大きく分けて下記 3 種類があるかと思われる。

  1. 自分で学習してから始める人 (書籍やドットインストール、prog8などを事前に試してくる)
  2. 事前学習なしで始める人で、端末 (Windows や Mac) 操作に慣れている人 (やネットワークの知識が軽くあったり)
  3. 事前学習なしで始める人で、PC を殆ど触った事ない人

こういった人達を大体半年くらいで指導して、カリキュラム程度の能力を身に付けようというのがスクールの仕事で、出口戦略としては、仕事斡旋や自スクールの TA (ティーチングアシスト) や講師業といった所に着くのが多いようだった。

WEB アプリケーションエンジニアコース (勝手に名付けた) が未経験から 1000 万の流行りらしいので、このコースを受講した場合を考える。

カリキュラムとしては、大体下記を教えるのが一般的らしい。

  1. マークアップ
  2. プログラミング言語
  3. データベース
  4. WEB フレームワーク
  5. AWS (のような PaaS, IaaS) を利用したデプロイ
  6. 自主制作 (ポートフォリオ制作)

カリキュラムとしては特におかしさは感じないものの、これだけで世の中の企業が大手を振って迎えいれるかというと、厳しいものがあるというのがまず最初に感じる感想で、おそらく他のエンジニアの方々も同感ではないかなと思う。

では何が引っ掛かるかと言うと、下記が思い浮かぶ。

  1. 最低限の経験については理解できるが「何が」「どの程度」できるのかを判断する材料にならない
  2. スクールごとに大体同じポートフォリオ
  3. カリキュラム外の能力の不透明さ
  4. 年収

大体は能力についての疑問。ただ、これは未経験がどうこうではなく、そもそもエンジニア (ただしくは、プログラマ) の能力を見積るための良い方法が現状では存在しておらず、業績と経験を面談で確認する事でしか判断できないからだと思う。

業績が未経験にあるはずがないので、必然的に経験を確認する事になるが、これもスクールで初めて学習しましたという状況の場合、みんな同じ経験談となってしまう。
その内容も、スクールのカリキュラムをやり切りましたという話でしかなく、採用側から見ると「学校を卒業するだけであれば余程の学校でない限り、それは公言するレベルの話ではない」となってしまう。

また、能力を保証するに足るスクールを出て初めて○○スクール卒に大きく意味がでるという事だけど、通常のスクールは卒業を難しく設定するという事はほぼないため、その論法も使えない。

こういった認識のため、スクール卒生に対しての世間の評価は、最低限習ったフレームワークと言語とデータベースは使え、環境のセットアップは何も分からない訳ではない、くらいのものかと思う。
あとは個人の努力がスクールの枠以外でどの程度行なわれているか、どんな事に興味を持って勉強できているか、コードがアウトプットとしてあるならそれを持って追加評価する事になる。

このスクール卒の能力であれば、半年スクールで勉強して覚える人がたくさん居るという実績から分かるが、新卒でも同じ状況を用意すれば出来るという話になる。
つまり、同じ半年で勉強して身につけるのであれば、「情報の大学卒」の学生を新卒採用して育てた方がバックグラウンドがある分教育コストが低そうに思われる (もちろん、本当に身についているかは別)。

この話が、4 で記載していた年収と掛かってくる。
未経験がスクールに通って1000万を目指すストーリー自体は良いと思うし、相応の努力をして実現する人も居るんだろうとは思うけど、まずは、先程の新卒を採用して半年育てた方が早そうという部分を正しく理解する必要がある。

これは単純に考えた時に、情報出の新卒が就職する時の初任給とほぼ同等、もしくは半年分のリード (実務向けに半年勉強している分の加算) がある程度までしか狙えないという事を意味する。 企業にもよるだろうけど、大体 18~22 万/月までで、賞与年 2 回、それぞれ 2 ヶ月分くらいが妥当な所じゃないだろうか。
月 20 万で計算すると、基本給 240万/年 + 賞与 80 万/年という感じだと思う (これでもかなり貰ってると思う)。

ここから社員でそのまま頑張って 1000 万の道程が見えただろうか?(自分は見えない)

あとは業種や企業の財布事情によって変わるので、もっと上があるという意見はまぁそうとしか言えない。
社員で 1000 万を目指すというのであれば、おそらくスクールやオンラインサロン、YouTuber が言う以上に難しいレベルを目指す事になるので、もし狙うというのであれば自分が昔に書いた記事だけど、 プログラマが知らない会社と税金と保険の話 を良く読んでフリーランスと社員の違いを先に理解した方が良い。

大体において 1000 万の文脈は個人事業主としての年商であって社員としての年収ではない (フリーランスの年商 or 売上 1000 万も簡単ではない)。

仮に、個人事業主での 1000 万を狙うという話で仮定したとして、次に出る問題は請負型か、常駐型かという部分がでる。
請負型でやるのであれば、特に目立った技術力は必要ないし、自分ができない所は他者を雇って担当して貰えば良いので、別に能力は不要とも言える。ただ、そもそもそれが出来るのであれば、エンジニアなんてやらずに最初からそういう事業を立ち上げてしまえば良いだけなので、少くとも自分が労働力として稼動することを前提にしているのだと思う。

請負は先程も述べた通り上手くやればいくらでも年収を伸ばせるため、議論には上げず、従業員としての働き方を維持する事を軸に考える。

常駐型はその点、社員と同じ働き方を求められるかつ、報酬が高めのため、おそらくここを例に挙げられる事が多いと思う。
実際、SES (派遣ではなく、メンバーをクライアント企業に作業のため常駐させること) 企業ではプログラマを 60 万/月ベースでやりとりする事が多く、経験が増えると 80 万/月なども良く見る。これらは単価と呼ばれていて、単価はロケーションや対象技術、言語などの条件や、ポジションによって変わる。

また、エージェント (フリーランスに仕事を紹介する人) が入らない場合 (直接営業の場合) はその分自分の取分を増やす事ができるため、営業さえ上手くやれば割と直ぐに単価を上げる事はできる。1000 万を目指すのであれば、80 万/月あれば、消費税込みでおよそ 1000 万という計算になる。おそらく、色々な所で謳っている文句はここ。

じゃあ 80万/月はスクール卒業後からどの程度後に実現できるのか?という話が未経験から 1000 万を狙う人達の気にしている部分であり、核心だと思うんだけど、これは正直全く分からない。

何故なら、勤務地 (クライアント所在地) でも大きく変わる (自分は大阪で活動しているが、そんなお金を出す企業は単純に探すだけでは出会わない) し、能力の基準も曖昧だから。
今 “は” 東京の単価が高く、比較的実現し易い環境であるという事だけはとりあえず言える事かも。言語や技術によって金額が変わるとも書いたが、これは物を変えただけでは特に価値は高くないため、あくまでも下地の能力がある程度高い事が前提の上、使う技術によって出方が違うという話。

つまり、現状ではスクール卒業以降では状況を保証する話が語れず、稼げるかどうかはその人次第という身も蓋も無い話で終える事しかできない。

なので 1000 万という夢のある年収を狙う事自体は悪くないけど、それがいつまでに叶うのかという保証は誰もできないし、その人が叶える事ができるのかも保証できない。
できる事は頑張れば叶うかもよという可能性の話をするだけで、スクールやサロンや YouTuber はそれを機械のように言い続けてくれる (そして叶わない時には努力が足りないという話で終わる)。

彼らのマーケティングは 1000 万を皆に稼がせる事ではなく、稼げるというビジョンを見せて、そのビジョンに乗っかった人の中からごく少数の成功体験を祭り上げて自分の発言の信憑性 (らしき何か) を高めて自分にお金を払ってくれる人を増やす事だから、彼らの中ではおそらくこれで良いんだろうと思う。

余談

じゃあ自分はそういう人たちが未経験から 1000 万という言葉を発している時に Twitter で適当な事を呟くいがいに何かできたのか、という部分がずっと気になっていたので今回の記事を書いてみた。

因みに、最近はフレームワークやライブラリ、周辺ツールが劇的に高機能になっているため、単に動くものを作る程度なら体系だった教育を受ける必要もなく、誰でもある程度の努力があれば習得出来る世の中になったと思う。
だからこそ、スクールのようなピンポイントな内容のみを教える私塾スタイルが流行っているのだと思うし、単純な作業者レベルでは、人員調達さえどうにか出来るようになってしまうと単価や需要が激減するのではと思う。

需要に関しては、そもそも高いのか?という疑問もあるけど、自分は東京の仕事を取っていた時も、関西圏内で活動している時もなんだかんだ仕事に困っていないので、すくなくとも自分レベルに対しての需要はそこそこあるのだろうという感想を持っている (これもいつまで続くかは分からないけど)。